現場力を高める5S活動
5S活動は、製造業を中心に実施されてきました。さらに、医療関係でも5S活動が盛んに実施されています。最近はサービス業でも5S活動に取り組む会社が増えてきています。サービス業の中では小売業や宿泊業界でも積極的に実施されています。しかし、5S活動は当たり前のこと、良いことであることは分かっているが利益につながらないとして長続きしていない会社が数多く存在します。
5S活動に何回もトライしているが一年も経つと元の状態に戻ってしまう。皆の協力が得にくい。業務の都合上、職場の仲間が一同に集まりミーティングすることができないなど、5S活動がうまく進まないのはその職場の現場力に影響します。なぜなら、現場力のある職場は本来業務の遂行能力も十分であると同時に5S活動も続けられるからです。
現場力とは何か
職場の仲間が一丸となって立ち向かうということは仕事を優位に進めるために以前から叫ばれてきましたが、情報化社会の今日ではそれが更に強く要求さています。そのような現代の社会において、仕事を計画通りに実行し成果を上げるためには強いチームを作る必要があります。強いチームのいる職場の現場力は当然強いのです。
現場力とは仕事の現場における「組織として構成された人材の力量」、一言で表現するならば「現場で働く人の力量」であるという説明があります。つまり、それぞれの現場において問題を発見し、解決する能力を維持できている職場ということができます。現場力に関する説明をまとめると、現場力を高めるための具体的な能力とは次の三項目です。
行動力:職場で発生する様々な問題を自ら解決する力
改善力:職場の一部の社員だけではなく、全員が知恵を出し合ってより良くする組織の能力
継続力:現状に満足せず、高い目標を持って推進する力
この説明がもっとも分かりやすい説明であり、感覚的にも納得できるものです。このことから、5S活動そのものが現場の環境改善ですから現場力のあるところは、5Sもできているということがいえます。
下図は5S活動チームの5段階評価と現場力の関係を示しています。5S活動のレベルが上がるに連れて現場力が変化し、5S活動を継続できるレベルに向上することを表わしています。
下記に5段階のレベルについて説明しますが、ここでは「5S活動を続けられる現場力」がテーマですので、レベル3からレベル4,レベル5へ向上するための現場力を対象にしています。
<レベル5>
5Sの習慣化が実現し、清潔な環境が完全に定着しているレベルですので、「5Sチーム力強化訓練」を年1~2回実施することにより、5S活動を継続的に実施することができるレベルです。
<レベル4は>
食品関連においては5Sが継続的に実施され定着し、清潔な環境が維持されている。更に、不要品が発生しない工夫、ムダをなくす工夫、衛生害虫やゴミの発生源対策、危険の察知される工程の予防保全の手順書の作成やルールを守るための改善を、ノンテクニカルスキルを意識しながら取り組み、ムリ・ムダ・ムラを排除できるレベルです。
<レベル3>
マニュアルや職場のルールが全員に周知され、正しく実行されている職場です。つまり、見える化されていますので、異常の発生や問題点を明らかにして5S改善を進めているレベルです。事例を元にノンテクニカルスキルの要素を理解します。
<レベル2>
仕組みはあるがその仕組みやルールが守られていないなど不十分な点があるレベルです。現場力の向上が急がれます。
<レベル1>
掃除は行き届いていますが管理された状態ではありませんので、5Sについて理解が不十分であるなど、職場に多くの問題が内在している可能性があります。
現場力を支えるチームワーク
会社の多くの部門、営業所や店舗の中で、5S活動が定着しているところは、本業の成績も良いのです。つまり現場力のある会社では5S活動が定着し成果をあげているということです。「1.3で5S活動に不可欠なこと」として示した「全員参加」や「自発的行動」は、チームワークの必須要件です。
CRMとはCrew Resource Managementの略で、航空会社で実施されているCRM訓練は、航空機事故をヒューマンファクターズの視点から分析して1980年代の初めに完成したとされています。問題発生前に問題に対処する訓練を行い問題の要因の発生を防ぐことを目的とする活動であり、活用できる全てのリソースを利用して「チーム力」を発揮するための訓練であると説明があります。全ての危険を前もって予知し訓練することは、航空界だけでなく医療界や化学工業など他の産業界でもそのリスクに応じた取り組みがなされています。航空界におけるCRMはノンテクニカルスキルの向上を目指した訓練ですが、これと同じように5SチームにおいてもCRMと同じ考え方に基づいて訓練することによりノンテクニカルスキルの向上が期待できます。なぜなら、レベルの差はありますが、必要とするチーム機能は共通するからです。
「人間の行動は、個人の性格と意識の影響を受けるが、性格は長い時間かけて形成されるもので簡単には変えることができないので、意識を変革する」というCRMの基本的なコンセプトの説明が紹介してありました。この説明は、5S活動が定着して効果をあげている会社の成功事例の中でよく言われる「意識改革」と共通するものです。
現場力向上にはノンテクニカルスキルが必要
5Sという言葉が使われはじめてから半世紀を過ぎた現在でも、多くの会社では「現場の基本は5Sである」「会社の基盤である」として取り組まれています。しかし、その実態は大半が期待通りの効果がでていない、なかなか定着しない等の問題をかかえているといわれています。実際、現場で5S活動が継続しなかった理由として、「5S活動推進が宣言されたが、すぐ衰退し、5S活動はなくなった」「5S活動に参加したが、忙しいだけで効果がなかった」など継続できなかった声が聞かれます。5S活動が続かないということは、その進め方に問題はないのか、急速に変化している職場環境に対応できているのかについて話し合い、現場力を強化するための5S改善に積極的に取り組みましょう。
5S活動は一般的に、職場単位の少人数のチームで行われています。そのチームパフォーマンスを向上させるためには、行動力、改善力、継続力の現場力が必要です。この現場力を高める最も基礎となる取組みのひとつが「5S活動」ですが、その考え方は「5Sを使う」です。
5S活動を積極的に推進している工場や店舗は、品質向上や衛生向上についても顕著な成果をだしています。
このように、5S活動の原点は現場にあります。図に示すようにノンテクニカルスキルを向上させる5S改善の推進により、あるべき姿に近づけるための行動を支えパフォーマンスの向上につなげます。