2020年9月23日
ヒューマンエラー対策については、5S活動によってヒューマンエラーの発生しにくい職場環境作っていくことが第一の目標になります。クレームが発生した時は、それがヒューマンエラーなのかそうでないのかは不明な場合もあるので、先ず、基本に則って現場・現物で真の原因を追究します。これによりなぜクレームが発生したのか答えはおのずと出てきます。ヒューマンエラーは人為的ミスなので、ミスが発生したからと言って必ずしもヒューマンエラーにはなりません。

ヒューマンエラーの防止
無意識のうちに決まっていることをやらなかったため、あるいは禁止されていることをやったために発生していたら、それらはヒューマンエラー(人的ミス)に該当します。誤配膳が発生しても、これはヒューマンエラーだからしかたないと片付けてしまっては再発防止できません。
ヒューマンエラーの対策は難しいですが、先ず、どんな種類に該当するのかを知ることによって、その原因や対策の方法が見えてきます。
1. ヒューマンエラーの分類
ヒューマンエラーの分類には、「結果からみたヒューマンエラーの分類」と、「原因の違いによるヒューマンエラーの分類」などがあります。不安全行動の中にはヒューマンエラーにならなかったものがあります。図の点線で囲んだ錯誤(スリップ)、失念(ラプス)、ミステイクは意図しない行動によるエラーです。
1.1 原因からみたヒューマンエラーの分類
ヒューマンエラーは、自分のとった行動が本来の「意図」からずれて別の結果につながってしまったものといえます。こうしたエラーが生じる原因とし大きく次の3つに区分できます。
スリップ : やろうとしたことは正しいのに実行段階で失敗してしまう(行動の間違い)
ラプス : 実行の途中でやろうとしたことを忘れてしまった(行動の忘れ)
ミステイク: 正しく実行はできたけれども、やろうとしたことそのものが間違っていた(判断ミス)
違反もヒューマンエラーに加えて分類されている場合がありますが、面倒だから、楽をしたいからと決められた手順を省略して別の手順が定着した結果が事故につながった例もあります。こうした意図的ルール違反行動は不安全行動とよばれ、ヒューマンエラーとは区別されます。
1.2 行動からみたヒューマンエラーの分類

2. ヒューマンエラーの要因と人間の特性
(1) スリップ(やり間違い)・・・人間の特性「行動」

錯誤の事例としてうっかり(勘違い)があります。指示書の見まちがいや思い込みによる間違いがこれに該当します。ミスの原因の中でも、うっかりによるミスは少なくないようです。このようなミスは誰でも経験し、苦い経験があるものです。発生現象によって、「取り違い」「思い込み」「飛ばし」などがあります。
うっかりミスは「時間がない場合」や「体調不良の場合」に発生することが考えられます。これらの要因によって、集中力を維持することができなくなった時に発生しますので、できるだけ集中力を維持できるようにすることが対策になります。集中力が維持できないことの背後要因としては、「周囲がうるさい」「作業がさえぎられる」「落ち着かない環境」などがあげられます。
(2) ラプス(やり忘れ)・・・人間の特性「行動」

すっかり忘れちゃって・・・
失念の事例としてし忘れがあります。会議の予定を忘れてしまい会議に出席しなかったというようなミスで、よく経験することです。
し忘れは毎日のように私たちの周囲で発生しています。取引先から請求書を受け取ったが来客があり忙しい日であったので、後で処理しようと思っているあいだに忘れてしまい指定の支払日までに処理できず信頼を失う事態になった。
やろうとする本来の業務の前の作業は忘れる可能性が高い、例えば食事という本来業務の前に薬を飲むのを忘れるようなケースがこれに該当します。
一方、エアコンの掃除を終わらせたが、エアコンの上に点検工具を置き忘れたまま運転を開始したというような、本来業務の後の作業を忘れてしまった場合です。このように、本来業務の前後の作業においては、「し忘れ」というエラーが発生する傾向があります。
(3) ミステイク(判断ミス)・・・人間の特性「判断」

今までは行動そのものの間違いでしたが、ミステイクに分類される失敗は、動作以前の段階で間違っており、行動の結果、うっかりミス(錯誤)であったことが分かるケースです。
例えば、N駅は地下鉄への乗換駅だから快速電車も止まるはずだと思い込んで、N駅で地下鉄M線に乗り換えようと、ホームに入ってきた快速電車に乗り込んでしまった。電車内のアナウンスも周囲の騒音が大きく聞き逃してしまった。そして、電車がN駅に停まらず通過してはじめて自分の犯したエラーに気づくというどんでん返しを受ける事です。また、目的の店は7階にあると思い込んでいて、エレベーターに乗って7回のボタンを押したら違う店であったという場合もこれにあたります。更に事例をあげると、電話番号の「3」と「6」をつい押し間違うのが「うっかり」で、電話番号を間違って覚えていて「6」を押すのがミステイクです。
(4)能力不足・・・人間の特性「行動」

仕事に対して必要な技能がなかったためにおかしたミスです。
新入社員によく見られるのが知識不足や経験不足や思い込みから来るヒューマンエラーです。上司や先輩社員からの十分に理解しないまま作業に着手してしまい、あいまいな知識のまま誰にも質問することなく自分一人の解釈で作業してしまい発生します。経験を積んで業務に習熟してくればこのヒューマンエラーは減ってきますが、知識の絶対的な不足が根底にあるのでこれを解決するためには、周囲のサポートも含めた対策が不可欠です。
(5) 無理なこと・・・人間の特性「認知」

無理な事とは、人の能力を超えた作業があった時に、それに対応できずにエラーが発生する場合です。これには、目視検査作業における視力、視野の範囲外の作業や高精度の技能を必要とする作業などが該当します。これらの無理な作業は、短い時間であれば集中力を維持できますが、長時間繰り返しているといつかミスが発生します。
人間の視力、記憶力、聴力、嗅覚、味覚といった能力を超えた場合、ヒューマンエラーの発生する可能性が非常に高くなります。
例えば、パーティー参加人数を口頭で15人から17人に増やすように連絡を受けた時に、17人ではなく18 人と聞き間違ってしまったというようなケースがこれにあたります。人の五感にも限界があります。大事なことは口頭ではなく、必ず文書で連絡する、受け取る時も文書で受けるというのもこのような間違いを防止するためです。過去に口頭で言ったことが相手に伝わらなかったために発生した事故は少なくありません。
無理な事とは、このように人の認知能力の限界を超えたために発生するエラーです。
(6)知識不足・・・人間の特性「認知」

知らなかった?
日常のコミュニケーションで事前に知る!
仕事に対して必要な知識がなかったためにおかしたミスです。特に教育・訓練で重要な事は、何故そのようにしないといけないのかという理由を教えることです。
a.改訂された作業手順書の内容を正確に理解していなかったために、担当者に誤った説明をして作業を混乱させてしまった。
b.新人の調理師が翌日使用の冷凍アジの仕込み段階において、冷蔵庫による緩慢解凍をしなければいけないところを流水によって解凍を行った。
3. ヒューマンエラーの分析の注意点
ヒューマンエラーが起こると、ミスを起こさないように、細心の注意を払います、意識づけを強化します、教育を徹底し技能向上に務めますなどという対応をしがちです。しかし、これは、ヒューマンエラーの原因をすべて人間のせいにしています。そもそも人間はこのような対策を行えば完璧なものになるものではありません。そこで、ヒューマンエラーは関連する、手順書、調理機器、環境、人から構成されるシステムの一部の欠陥によるものです。もちろん人間もシステムを構成する一員ですので、要求される知識や技能を備えておくのは当然のことです。
3.1 スイスチーズモデル
スイスチーズモデルは、事故は単独で発生するものではなく、複数の事象が連鎖して発生するものです。

3.2 ヒューマンエラーはシステムの欠陥とは?
ヒューマンエラーは人的ミスと言われていますが、発生原因や対策を検討する前に注意しなければならないことがあります。それは、ヒューマンエラーは「システムの中で発生した人間のエラー」であるという考え方を持つ必要があるということです。つまり、ヒューマンエラーの発生は、それを起こした一個人の問題ではなく、システム全体の問題点がヒューマンエラーという形となって表に出てきたと考えないと止まらないということです。

3.3 ヒューマンエラーは結果であるとは?
ヒューマンエラーが原因で問題が発生したとすると根本原因に到達せず再発することになります。ヒューマンエラーとは、人間のとった行動が意図しない結果を生じてしまったことです。つまり、正しいと思って行動した結果が期待されている範囲を逸脱した結果です。そこで、なぜ正しいと判断したことが期待どおりいかなかったのか原因を明らかにして再発防止の対策が必要になります。
4. ヒューマンエラーの発生要因と対策
人は同じ仕事をしていても、ヒューマンエラーを起こす場合と起こさない場合があります。人はいつも同じ状態ではありません、体調が悪かったり、悲しい出来事があったり、また、楽しくてうきうきした気分の時もあります。このように人の心の背後にある感情の影響を受けて、同じ仕事をしてもヒューマンエラーにつながることのないように対策し、要因を一つ一つつぶしていきましょう。
(1) スリップ :認知→行動は正しかったが、実行段階で失敗してしまう
[強い意志がない時に、潜在意識によって引き起こされる]

<対策>
1) 習熟して慣れた作業で、何らかの変更など慣れない作業を入れるとミスしやすい。
→指差し呼称が有効
2) 集中力の低下 →15秒ごとにボタンを押さないと減速する、二つのボタンを同時に押さないと動かない
3) 失敗しても大勢に大きな影響がないと考える時、責任感や注意力が低下しミスが生じやすい(リンゲルマン効果)→ダブルチェック
4) 心離れ大事なことが終わると、その達成感で、他のことを忘れてしまう。→注意喚起
5) 共通点があり似ていた(スリップ)→色別管理
6) 今、行っている作業以外に意識がいってしまった→心ばなれの時間帯に注意喚起
7) 難しい作業を技量でカバーしている→誰にでもできる作業にする
8) チェック項目が多い→チェックリストの読み合わせ
(2) ラプス :実行の途中で計画自体を忘れてしまった
「未来によろうとしていること」が思い出せなかったこと

<対策>
① 作業の主要部分の直前の失念防止のため、直前にいろいろなことを行わない。
② 作業の主要部分の直後の失念防止のため、作業の主要部分を最後にする
③ 主要部分の前後のチェックを行う。
(3) ミステイク:正しく実行はできたけれども計画そのものが間違っていた
•動作以前に間違っており、行動の結果うっかりミスであることが分かった。

<対策>
① 自分で気づかせる 自分のエラーに気づく力を高める
② 人間だから間違っていないかを確認させてもらう
(4) 違反・・・人間の特性「行動」
人は規則を破り、理由をつけて手抜きをし、手順を省きます。これには様々な背景があります。
(4) 違反・・・人間の特性「行動」
人は規則を破り、理由をつけて手抜きをし、手順を省きます。これには様々な背景があります。

「これくらいは大丈夫だろう」、「面倒くさい」、「皆がやっているから」、「作業を早く進めるためには仕方がない」など、また「長年経験しているから大丈夫」、「自分が事故を起こすはずはない」など慣れや過信から、「あるべき姿」を逸脱する安易な行動がとられた結果、事故に発展するケースが少なくありません。
運転時のスピード違反や一時停止無視など、日常を思い出せば決して他人事ではありません。不安全行動はすぐに事故に結びつくとは限りませんが、繰り返している中でヒヤリとしたりハッとしたりすることも多く出てきます。そうしたヒヤリ、ハットの積み重ねの中にほかの要因が加わるなどして、あるとき重大な事故が発生することになります。
[初心者の違反]
a. 身についていない
b. はずかしい
初心者の違反は知識不足であっても熱心にやった結果として違反する場合が多いですが、熟練者の違反は意図的で故意である場合が多くあります。
[熟練者の違反]
熟練者の場合は初心者の場合と異なり、規則やマナーについては良く知っているのですが、意図的にこれに従わなかったために発生するものです。このような違反は故意ですので必ず理由があり、また人の性格が影響する場合があります。故意には次のような種類があります。
1) 権威による圧力 →圧力をかけない
2) 手順が合理的でない 人は最も楽で合理的な方法を自然に選択します。例えば、公園の芝生
を斜めに横切るルートが最短であれば多くの人がそこを通り、芝生は
はげてしまいます。この場合の最良の解決方法は、最短ルートを通れ
るようにしてしまうことです。→手順の見直し
3) あせり ミスのない作業には、適度な緊張感のある「遅くはないが、慌てないペース」が理
想です。一方急な受注や不良品のため特急作業が生じると、作業者は自然と急いで
作業します。→急がせない
4) マニュアルの形骸化 時間の経過と共に作業指示書・マニュアルの経緯を知る人がいなくな
り、作業手順書・マニュアル以外のことを「試してはいけない、考え
ても行けない」という融通の利かない運用になってしまいます。これ
を防ぐためには作業手順書・マニュアルは、「守るためのものだが、
されど変えるためにもある」と考え、定期的に見直しを図ります。→
マニュアルの意味を理解させる
g5skaizen.hatenablog.com
5. 5S活動
ヒューマンエラーが発生した時とるべき行動は、発生させた人をせめないことです。発生させた人が悪いのではなく、発生するような「仕事環境」にあったのは、「職場環境」の改善が不十分であったと考えましょう。
誤配膳や味に対するクレームの原因は、ヒューマンエラーであると一言で片付けたら決して事故はなくなりません。一つひとつのヒューマンエラーが何故おきたのか、当事者を含めてその原因を究明し対策をとらないといけません。
5S改善でヒューマンエラーの発生要因をなくすことについて説明します。5S活動を実施すると何が良くなるのでしょうか、それは次の三点です。
1)仕事場の環境の改善
長期に渡って発生している欠陥であり、致命的ではないので大きな問題にならない。そのため放置されているため、次の慢性不良やムダの発生の原因になる場合があります。
2)慢性的に発生している商品やサービスの不具合
製品の慢性化した不良に気がついても小さいので見逃すような事や、今は小さな事でチェックすることにより取り除くことができるが、放置すると顕在化して不適合になってしまう。
3)能率が悪い
ムダなこと、捜し物をする時間など、本来ならしなくてもよいこと、不必要なことに時間を費やすことをなくし能率アップをはかります。
5Sは手段あるいは手法、道具とも言えます。5Sという手段や道具があっても、持っているだけでは何も生まれません。その手段や道具を正しく使いこなしてこそ成果が出てきます。使いこなすために欠かせない要素が、全員参加と自発的行動です。
① 全員参加5S活動は全社員が共に仕事をする職場の環境を改善する活動であるため、全員参加が前提ですが、メンバー間の温度差をなくす気配りが必要です。
② 自発的行動自分は何のために5Sをするのか考え、理解し、自らの意思(目標)を決めることによって、やらされ感がなくなり自発的行動が生まれる。
<対策>
① やめる ヒューマンエラー発生の可能性のある作業をなくす
② できないようにする 物理的制約を加えるなど
③ ヒヤリハット